ウェブエンジニアでもできる大野

大野、社会の底力
どうする？大野！

大野、社会の底力

しょーちゃんはおにぎりを作って来るねって僕のこめかみにキスをしてから下におりて行った。
キス、わざと和と大野くんに見せるみたいにしてる気がするんだけど、気のせい？
いつもは額にするのに、見せるみたいに今日はこめかみが多くて。
考えすぎ？
小さく小さく手足を抱えて座る和に、ご飯どうする？って聞いたら、まーくんが食べないなら俺も要らないって小さく小さく答えた。
大野くんは困ったように和を見て、そしておれが何か作ってくるって降りて行った。
「ちゃんと食べないとダメだよ？」
「………まーくんも、食べないじゃん」
「………そうなんだけどさ」
和とふたりになって、静かになる部屋。
開けてある窓からは潮くさい風と、時々通るローカル線の音。
「まーくん」
「………ん？」
横になりたかったけれどやっぱり布団が嫌で、座って窓辺に凭れていたら和が僕を呼んだ。
和を見ればまだ虚ろな感じの目で、その目が悪魔を彷彿とさせて少しこわくて、僕はすぐに視線を落とした。
「………あの人入れたの、俺」
「………え？」
「あの人、まーくんを襲おうとしてた人。俺が………入れた」
抑揚のない声でそう言って、和は無表情のまま涙を流した。
ごめんなさいって。
まーくんごめんなさい。ごめんなさいって。壊れた機械みたいに、繰り返してる。
「和は悪くないよ」
「………まーくん」
「和は悪くない」
カーテンが揺れて、潮くさい風が部屋に舞った。
砂丘、そういえば最近行ってないっけ。なんて。
泣いている和とは全然関係のないことを考える。
「悪いのは悪魔で、悪いのは………」
悪魔に魅入られた僕だ。
………ごめんなさい。
泣いている和を抱き締めることもしないまま、してやれないまま、僕は暗い、向こうにあるはずの海を見ていた。
僕を抱き締めるのがしょーちゃんなら、和を抱き締めるのは大野くん。
僕にできるのは、和は悪くないってことを伝えることだけ。
身体が冷えてぶるりと震えて、僕は窓を閉めた。
カーテンは動力を失ってピタリと止まった。